めっきの技術用語
用語一覧(一般)
化学に関する用語
元素
特定の原子番号をもつ原子によって代表される物質種を元素といいます。元素を表すには、元素記号を用います。
例:銅Cu、ニッケルNi、クロムCrなど
周期表
元素の種類と基本的な特徴や類似性を周期的にまとめた表のことです。
族の例:アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ハロゲン、貴ガスなど
原子量
各元素の原子の質量を表した値です。1個の原子は極めて小さく軽いため、原子を一定の数(アボガドロ数6.02214078×1023個:1mol(モル))として、その重さで示した値(g/mol)になります。
例:H1、O16、Ni58.7など
電解質
塩や分子が水に溶けてイオン化して電離する物質のことです。それを溶解した電解液は、電気が流れる性質(電気伝導性)があります。電解液に、2つの電極を挿入して電流を流すとイオンが移動して電流が流れます。
例:NaCl、H2SO4、KOHなど
カチオン(陽イオン)
正(+)の電荷に帯電したイオンのことです。
例:Na+、H+、Cr3+など
アニオン(陰イオン)
負(-)の電荷に帯電したイオンのことです。
例:Cl–、SO42-、CrO42-など
価数(イオン価)
イオンが持っている電荷の数のことです。イオン数は、元素記号の右上付きの数字で+や-はイオンが正か負を表します。めっき反応でめっき金属を得るには、各金属イオンの価数の数だけの電子が必要になります。
錯体(錯イオン)
金属イオンによっては水溶液中で、アニオンや極性を持つ分子と結びつき、複雑な構造のイオンや分子を形成します。金属イオンと結合する分子などは錯化剤と呼ばれ、形成されたものは錯体あるいは錯イオンと呼ばれます。
例:シアン化銅イオン、ピロリン酸銅イオンなど
キレート化合物
錯化剤の種類によっては、金属イオンと結びつく手が2つ以上もつものがあり、そのような分子をキレート化合物と呼びます。キレート化された錯体は、金属イオンを囲んだ環状構造となり、より安定します。
例:銅EDTA錯体、クエン酸ニッケル錯体など
pH
水溶液に含まれる水素イオンの濃度を示す指標で、濃度の逆数の対数として表したものです(pH=log(1/[H+])。pHは0~14で、中性は7となります。pHが1増加すると、水素イオン濃度は1/10の濃度になります。めっき液では、金属イオンを溶液中で安定化したり、副反応の水素発生を抑制したり、めっき皮膜の物性を一定に保つ面から、めっき液のpHを一定の範囲内に制御するのが一般的です。
酸化
物質が電子を失う化学反応のことです。具体的には、物質に酸素が結合する反応、物質から水素が奪われる反応、金属が金属イオンとなって溶解する反応があります。
例:鉄が錆びて酸化鉄になる反応、アルコールが酸化してアルデヒドやカルボン酸になる反応など
還元
物質が電子を得る化学反応のことです。具体的には、物質が酸素を失う反応、物質が水素と化合する反応、金属イオンが電子を得て金属に還元される反応があります。
例:電気めっき、酸化鉄を還元して鉄にする(製鉄)など
酸化還元反応
反応物から生成物が生ずる過程で、原子やイオンあるいは化合物の間で電子の受け渡しが起こる化学反応のことです。酸化還元反応では、ある物質の酸化と別の物質の還元が同時に進行します。電気めっきの場合、陰極でのめっき皮膜の析出(還元反応)と陽極での金属の溶解(酸化反応)が同時に別々の電極で起こります。
比重
ある物質の密度(単位体積当たり質量:g/L)と基準物との比を示します。水溶液では4℃、1気圧における水の比重を基準1としています。めっき液や各種処理液の濃度の簡易管理には、比重計やボーメ計が用いられます。
密度
電気に関する用語
電流
電荷の移動を電流といい、正電荷が流れる向きを電流が流れる方向にしています。導線中では、電荷を持つ電子が移動し、それは負の電荷を帯びているため、電流の向きは電子の移動と逆方向になります。電流の大きさの単位は、アンペア(A)です。なお、電解液中ではイオンが移動することによって電流が流れます。電流の測定には、電流計、テスター、クランプメーターなどを用います。
電圧
2点間における電位の差のことです。電圧は、回路に電流を流そうとする働きに相当します。電圧の大きさの単位は、ボルト(V)です。電圧の測定には、電圧計、電位差計、オシロスコープなどを用います。
電気抵抗
電気抵抗とは、電流の流れにくさを表した数値で、オーム(Ω)が単位に用いられます。物体の電気抵抗Rは、そこの電圧Vとそこを流れる電流Iの比(抵抗=電圧/電流:オームの法則)で求められます。なお、導線の電気抵抗は、その長さに比例し、断面積に反比例します(抵抗=電気抵抗率×長さ/断面積)。
直流(DC)
時間によって流れる向きが変化しない電流(あるいは電圧)を直流と呼びます。電気めっきでは、直流を用います。
交流(AC)
交流とは、時間の経過とともに周期的に大きさや向きが変化する電流(あるいは電圧)のことです。我が国における交流の周期は、西日本で60Hz、東日本で50Hzです。
電力
電力とは、単位時間に電流が行う仕事量を示します。電力Pの単位はワット(W)で、電圧(V)で電流(I)が流れているときの電力はP=V×Iで求められます。
電力量
電力量とは、電力を時間で積分したエネルギー量のことです。直流回路では、電力量Wは電力Pと時間tの積W=P×tで、単位はワット秒(Ws)やワット時間(Wh)を用います。交流では、力率による補正を行います。
整流器(直流電源)
整流器とは、電流を一方向にだけ流す(整流作用)を有する素子のことです。一般には、交流を直流に変換する素子の総称として呼んでいます。整流器には、ダイオード式、サイリスタ式など多くの方式があります。整流器を用いて交流を直流に変換する回路は、整流回路(順変換回路)と呼ばれています。直流電源は、整流回路を組み込んで、直流を流すことができる電源のことです。
リップル
リップルとは、交流を直流に変換した後に残る電圧あるいは電流の変動のことです。交流を直流化すると、整流方式による脈流になります。一定の直流を得るには、脈流を平滑にする回路が用いられますが、その性能によってリップルが残ります。めっきによっては、リップルが析出状態や物性に影響を与えます。
パルス電源
パルス電源は、通常の電源のように定電流を供給するのではなく、制御したタイミングでON/OFFのできる電源のことです。めっきでパルス電源を用いると、大きな電流を用いることができたり、めっきの結晶粒を緻密化したり、場合によっては合金めっきの成膜にも使います。シアン化銅めっきでは、逆転したパルス(PR)を用いて、平滑化や光沢の改善が行われています。
電気化学に関する用語
電気分解(電解)
電気分解とは、電解質を溶かした溶液(電解液)に一対の電極を入れ、外部の電源から電流を流して電気化学変化を起こさせることです。
例:水の電気分解、電気めっき、塩素の電解生成など
電解析出(電析)
電析とは、電気分解を用いて電極表面にめっき皮膜などを生成することです。
例:電気めっき、電解化成膜形成など
貴な金属
pH0の酸溶液中で水素が発生する電位を基準(0V 標準電極電位)とし、その溶液中でそれより正で高い電位をもつ金属を指します。貴な金属は、イオンになりにくい金属で、塩酸溶液に浸漬しても溶解しません。
例:金、白金など
卑な金属
pH0の酸溶液中で水素の標準電極電位を基準として、それよりも負の高い電位をもつ金属を指します。卑な金属は、酸溶液中では水素ガスを発生しながら溶解します。
例:アルミニウム、マグネシウム、亜鉛など
電位(電気化学的な電位)
電位とは、物質の中の電子がもつエネルギーの位置(ポテンシャル)のことです。電極電位をマイナス側にすることは、電極中の電子のエネルギーを上げて電子が放出しやすくなること、つまり分子やイオンを還元しやすくすることを意味します。逆に電位のプラスとは、酸化を促進する方向になります。
電位差
電位差とは、ある点と別の間における電位の差のことです。電位差を電圧と呼ぶこともあります。
酸化還元電位(平衡電位)
電極反応において、酸化反応と還元反応が釣り合って平衡状態にあるときに示される電位のことです。電気化学反応では、水素電極反応を基準0Vに、各物質の酸化還元電位が表されています。
電極
陽極または陰極のことです。電気化学(電気分解)では、外部回路から電流が流入する電極を陽極(アノード、場合によっては正極、+極ともいう)、外部回路に電流が流出する電極を陰極(カソード、場合によっては負極、-極ともいう)と呼びます。
陽極(アノード)
電気めっきの陽極とは、金属が電気化学的に溶解する極(可溶解金属の場合)を指します。不溶性陽極(白金や鉛など)を用いる場合には、水の酸化分解による酸素ガスの発生、あるいは液中成分の酸化が起こります。
陰極(カソード)
電気めっきの陰極では、金属イオンが電子を受け取って還元され、めっきが形成される極(品物)を指します。めっき液では、陰極で水が還元分解されて水素ガスが発生する副反応を伴うことが多いです。
水素過電圧
水素の発生は、理論的には水素の標準電極電位から起こります。しかし、実際は電極の種類によって水素発生が始まる電位が異なります(水素発生の触媒性に差があるため)。水素発生を起こすために必要な過剰電圧(水素標準電位との電位差)を水素過電圧と言います。
酸素過電圧
酸素発生反応を起こさせるために必要となる過剰な電圧(酸素電位との電位差)を酸素過電圧と言います。
過電圧
電解を行っている電位とその反応が平衡となる電位との差を言います。
例:水素過電圧、酸素過電圧、めっき析出反応の過電圧など
ファラデーの法則
ファラデーは電気分解に関して、『物質が析出あるいは溶解する場合、析出または溶解する物質の量(質量W:gまたは物質量n:mol)は通電した電気量Qに比例する』(式ではW=k(定数)×Q)こと、『同一電気量によって、析出あるいは溶解する物質の量nはその原子価(z)に反比例する』ことを見出しました。後者を式で表すと、n=m/M=It/zF(ここで、物質量n(mol)、イオン価数z、電流I(A)、時間t(s)、ファラデー定数F=96500C/mol)となります。この式を用いて、めっきの電流値と通電した時間からめっきの理論的な析出量を求めることができます。
クーロン(電気量)
クーロン(C)とは、電気量または電荷の単位です。電流I(A)が一定時間t(s)に流れた電気量は、I×t(C)になります。