耐食性
表面処理は素地を腐食因子から保護し、素地自身が腐食してしまうことを防ぐ目的で行われます。
腐食は酸化還元反応で、酸化反応(金属が溶解する反応)が起これば、必ず還元反応を伴っています。例えば、鉄の溶解反応を考えてみましょう。
この反応に対して、還元反応は腐食が起こる環境によって変わります。
次に、金属の腐食の指標としてよく用いられるイオン化傾向について説明します。これは、酸性溶液中で金属がイオンになりやすい(溶解しやすい)順に金属を並べたものです。
鉄とクロムに注目すると、クロムの方が溶解しやすい金属になっています。防食目的で鉄材の部品に硬質クロムめっき処理しますが、硬質クロムはバリヤー型めっきとして知られており、鉄よりも腐食が起こりにくい金属とされ矛盾が生じます。この理由を示すため、中性雰囲気下での金属の腐食しやすい順を示します。
中性雰囲気下ではクロム、アルミニウム、チタンが貴側(腐食しにくい金属)に移動しており、鉄より耐食性を示す金属になっています。これは、溶存酸素によってクロムやアルミニウム、チタンの表面に緻密な不動態膜が形成されることに起因します。従って、金属の腐食の起こった実環境を正しく考慮しなければなりません。
1.防食メカニズム
素地を腐食因子から保護するために防食目的でめっき処理する場合、めっきを構成する金属の種類によって、犠牲防食またはバリヤー型めっきに分類されます。
犠牲防食めっき
亜鉛などの電気化学的に溶解しやすい卑な金属が陽極となり、めっき皮膜が溶解することで鉄素地が防食されます。
1.亜鉛の溶解が進行します。(白色発生)
2.鉄素地の露出面積が大きくなると電気化学的な防食作用が働きにくくなり、亜鉛めっき層が消失すると鉄素地の腐食が始まります。(赤錆発生)
Point! 犠牲防食めっきの耐食性は、めっきの膜厚で決まります。
犠牲防食めっき・・・亜鉛めっき、カドミウムめっき等
バリヤー型めっき
- ニッケルめっきの場合は、ニッケルが鉄よりも貴な金属なのでめっき層に欠陥がない限り、耐食性はめっき金属の性質となります。
- 硬質クロムめっきは表面に強固で緻密な不動態膜を形成し、鉄よりも貴な金属のふるまいをします。
- ニッケルめっきや硬質クロムめっきは素地に到達するピンホールや傷があるとめっき層の下の鉄素地から赤錆が発生します。
Point! 素地に到達している欠陥をいかに少なくできるかで耐食性が決まります。
バリヤー型めっき・・・ニッケルめっき、クロムめっき、スズめっき、金めっき
2.硬質クロムめっきの防食機構
一般的に、研磨した硬質クロムめっき表面には不動態膜が形成されているので高耐食性を示します。硬質クロムめっき処理した部品やロールを使用しているとめっきに傷が入ることがありますが、以下の機構で不動態膜の再形成が起こり、少しの傷であれば高耐食性を維持した状態で使用することができます。
(i)不動態膜形成(高耐食性)
(ii)不動態膜破壊(傷が入る等)
*小さい傷であれば瞬時に酸化され(iii)の状態になります。
(iii)不動態膜再形成(高耐食性)
空気中の酸素によって不動態膜が補修されます。
硬質クロムめっきのダメージが大きかったり、膜再形成に必要な酸素が供給されない環境下では不動態膜の再形成が起こらず腐食が進行します。
3.硬質クロムめっきのクラック
硬質クロムめっきのマイクロクラックはめっきしたままの状態では開孔しており、腐食因子がクラックに入り込んで鉄素地が腐食します。その対策として硬質クロムめっきをバフ研磨し、表面に露出したクラックを閉孔します。クラックを閉孔した硬質クロムめっきは不動態膜の性能が活かされて高耐食性を示します。
めっきしたままの表面顕微鏡像
湿式バフ研磨後の表面顕微鏡像
乾式バフ研磨後の表面顕微鏡像
硬質クロムめっきの耐食性を向上させる方法としては、仕上げ研磨以外に多層硬質クロムめっきがあります。硬質クロムめっきを多層化することで、素地に貫通した欠陥を減らすことができます。以下に単層と2層硬質クロムめっきの腐食試験結果を示します。
キャス経過時間/h | 1 | 2 | 4 | 6 | 8 | 24 | 48 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
単層硬質クロムめっき | 〇 | ||||||
2層硬質クロムめっき | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
その他、硬質クロムめっきのクラックを利用した表面処理はこちらです。
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4.耐食性評価(JIS H8502)
めっきをする目的に防食があります。めっき処理した製品の使用環境は様々で、短時間で錆が発生するような過酷な環境もあります。よって、めっきの物性として耐食性評価をすることはとても重要なことなのです。めっきの耐食性試験はJISの規格で定められており、代表的な試験をまとめています。
4.1 屋外暴露試験
めっき製品の耐食性寿命を考える上で、実環境である屋外暴露試験は極めて重要な試験です。暴露試験は屋外で暴露台上に試験片を置き、大気環境下でのめっきの耐食性を長時間に渡って調べます。結果が出るまで相当長い期間を要するところが難です。
4.2 中性塩水噴霧試験
電気めっき、塗装、防錆油などの分野で標準的な耐食性試験が中性塩水噴霧試験です。めっき関連のJIS規格のほとんどの耐食性試験方法に、中性塩水噴霧試験が採用されています。
中性塩水噴霧試験機の内部
中性塩水噴霧試験の条件
項目 | 条件 |
---|---|
塩化ナトリウム濃度 | 50±5g/L |
pH | 6.5~7.2 |
試験槽内温度 | 35±2℃ |
4.3 キャス試験
ニッケルクロムめっきのような高耐食性めっきは中性塩水噴霧試験では長期間を要するので、より促進性の腐食試験として考案されたのがキャス試験です。
キャス試験機
キャス試験の条件
項目 | 条件 |
---|---|
塩化ナトリウム濃度 | 50±5g/L |
塩化第二銅濃度 | 0.26±0.02g/L |
pH | 3.0~3.2 |
試験槽内温度 | 50±2℃ |
4.4 フェロキシル試験
ニッケルめっきの耐食性試験としてフェロキシル試験があり、硬質クロムめっきの素地に貫通している部分の検出に用いられます。フェロキシル試験は、試験液と鉄が反応して形成される青色のフェロシアン化鉄を検出することで評価します。以下の試験結果から、硬質クロムめっきは膜厚40μmまで素地に貫通した部分が存在しています。
めっき膜厚 | 鉄素地 (めっき0μm) | 5µm | 10µm | 15µm | 20µm | 25µm | 30µm | 40µm | 50µm |
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フェロシアン化鉄の検出(濾紙) |