クロムめっきとロールナビ

Chrome Plating and Roll NAVI

硬質クロムめっき

耐摩耗性

硬質クロムめっきは高い耐摩耗性を有し低摩擦であるとされています。

そのため、ロールやピストンなどの摺動を伴う機械部品に多く使われています。しかし、実際は使用環境・摺動する相手材・荷重等の様々な要因により耐摩耗性の性能は異なってきます。硬質クロムめっきが本当に期待する性能を発揮するかは実環境に近い状態での耐摩耗性の評価が必要になります。

ここでは摩擦摩耗や耐摩耗性・低摩擦についてとその試験方法などを解説します。

1.摩擦摩耗とは?

1.1 摩擦と摩耗について

摩擦とはある二つの物質が接触した状態で、こすり合わせる運動をした場合にその運動方向とは逆方向の力が働く現象のことを言います。この時、発生する力を摩擦力を言います。摩耗とは、摩擦によって固体材料がすり減っていく現象のことを指します。

1.2 耐摩耗性≠低摩擦

一般に耐摩耗性とは材料が摩耗しにくい性質の事です。つまり、摩擦によってすり減りにくい材料は耐摩耗性が高いと言えます。

一方で低摩擦とは材料上にて物質を滑らせた(摩擦させた)時に抵抗が小さい状態を言います。つまり、滑りやすければ低摩擦材料と言え、材料の組み合わせや表面状態にも左右されます。

低摩擦であっても容易にすり減ったり、逆に滑りにくくとも簡単にすり減らない材料もあります。その為、『耐摩耗性が高い=低摩擦である』とは限りません。

2.摩擦摩耗試験と注意すべきこと

2.1 めっきの摩擦摩耗試験

めっきの耐摩耗試験には、JIS H8503に定められている方法として以下の方法があります。以下に示した方法以外では、汎用的な往復摺動摩擦試験等も用いられています。ここではよく用いられるテーバー式摩耗試験と往復摺動摩擦摩耗試験について説明します。

  1. 砂落とし摩耗試験
  2. 噴射摩耗試験
  3. 往復摺動摩擦摩耗試験
  4. 平板回転摩耗試験(テーバー式摩耗試験)
  5. 両輪駆動摩耗試験

2.2 テーバー式摩耗試験(JIS H8503)

回転盤上に平板型のサンプルを固定し、規定荷重下で摩耗輪と摩擦させ試験前後の重量変化によりめっきの耐摩耗性を評価する試験です。

テーバー式摩耗試験条件

試験荷重研磨紙の粒度評価対象
1.5~2.5kgf(14.7~24.5N)#240~320硬質クロムめっき等硬いめっき
1.5kg以下(14.7N以下)#320~360その他のめっき

テーバー式摩耗試験機

2.3 往復摺動摩擦摩耗試験

ボール型の摺動材を材料表面で摺動させ、その際の摩擦係数を測定します。試験後の摩耗断面積や摩耗量を求め、耐摩耗性を評価します。また、摩擦係数から摩擦抵抗の比較を行います。摺動材の種類や荷重を変化させて測定できるなど、さまざまな条件にて測定を行うことができます。

往復摺動摩擦摩耗試験機

試験中の動作

2.4 摩擦摩耗が受ける測定条件の影響

摩擦摩耗は皮膜や測定荷重の影響を受けます。一方同じ皮膜、測定荷重であってもこすり合わせる摺動材が異なる場合では、摩擦摩耗挙動は大きく変化します。例として同一のめっき皮膜に対して、摺動材をアルミナボールとSUJ2ボールに変えた時の結果を示します。

アルミナボール摺動での摩耗

摺動材であるアミナボール、めっき皮膜共に摩耗しています。

アルミナボールの摩耗量

めっき皮膜の摩耗量

SUJ2ボール摺動での摩耗

摺動材であるSUJ2ボールは摩耗していますが、めっき皮膜はほとんど摩耗が見られません。

SUJ2ボールの摩耗量

めっき皮膜の摩耗量

このように、同じめっき皮膜、測定荷重であっても摺動材によって摩擦摩耗挙動は大きく異なります。その為、実際に摩擦する材料に近い摺動材を用いて試験を行わないと実用上の有効な結果には結びつきません。