金属の硬さを左右する因子として二つ目に挙げた格子欠陥についてお話します。
金属の原子は三次元的に規則的に並んでいますが、必ず乱れが生じている部分があり、その部分を格子欠陥と言います。(現在の技術では、格子欠陥のない金属材料を作製するのは不可能です。)
格子欠陥には、点欠陥、線欠陥、面欠陥の三つがあります。点欠陥は、原子が一つ抜けていたり、余分に入り込んでいる状態のことを言います。線欠陥は、原子が線状に抜けている状態で転位などがあります。三つ目が面欠陥で、原子が面状に抜けている状態で積層欠陥などです。
塑性変形は、外力が加わるとすべり面で原子がずれて起こる現象であると金属の硬さ①で説明をしました。下の図は、すべり面で原子が一気にずれた状態を示しています。
もし、この図のように原子が一気にずれた場合、どれくらいの力で起こるのでしょう?
原子を一気にずらすのに必要な力を理論的に求めると、実際に塑性変形に要した力の約100000倍の値が出てきます。これは、原子が一気にずれるよりももっと小さな力で塑性変形が起こっていることを意味します。
では、原子レベルでは実際にはどのように塑性変形が起こっているのか見てみましょう。
実は、塑性変形を起こすすべり面には必ず転位が存在しています。その転位が1原子ずつ段階的に移動するのです。下の図の(a)から(e)に一気にずれるのではなく、(a)→(b)→(c)→(d)→(e)とずれ、最終的には表面に転位が到達して段差が生じます。この転位の移動が何度も起こり、私たちが目で見て分かる程度の変形になります。
塑性変形を原子レベルで見ると、転位の移動によって起こることが分かりました。従って、硬い金属はこの転位の移動が起こりにくい状態になっていると言えます。
固溶した異種原子や析出物で転位移動の阻害を起こすことを、固溶硬化、析出硬化と呼びます。また、塑性変形が進んで多くの転位が蓄積されると、転位が別の転位の移動を阻害します。これを加工硬化と呼びます。
ちなみに、硬度が高い材料としてセラミックスがありますが、セラミックスは硬いですが金属のように塑性変形を起こさずに破断します。これは、セラミックス材料では、転位が動きにくいことに起因します。